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山の日レポート

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自然がライフワーク

登山で病気に負けない体をつくる(3)「 健康登山塾」の成果

2024.02.20

山の日通信員
日本山岳会 群馬支部山の通信員G
日本山岳会群馬支部根井

学習としての効果

「健康登山塾」の目的は短期間でムキムキの体をつくることでも、高血圧や糖尿病を治すことでもありません。あくまでも登山という活動の特性を生かして、健全な生活習慣を身に付けてもらうことを目指しています。幸い、年度途中に行ったアンケートでは、ほとんどの塾生が週に3回程度、毎回30 分程度の運動を心がけていると答えてくれました。各年度のまとめの会でも、全ての参加者から生活習慣の改善に役立ったと高評価を得ています。参加を希望する時点でかなり強い健康志向があったと考えるべきですが、塾でのさらなる動機付けやアドバイスにより、運動習慣確立や生活改善がよりいっそう図られたのではないかと思います。
また、初心者の方々には限られた講習回数の中で、平坦地、木枠階段、岩場、緩傾斜地、急登などさまざまな登山道の形態を経験してもらいました。
街中のウオーキングだけでは身に付かない、足元の変化に合わせた歩き方、坂道での歩行スピード調整や体勢保持のコツをある程度習得してもらうことができたと考えています。幸か不幸か、悪天候の中での開催も少なくなかったことから、冷雨の中での雨具を着けての歩行、体温調節も練習できています。こうした経験や知識は、日常生活での転倒防止や体温管理にも確実に役立つと考えられます。

健康登山塾の修了証

仲間づくりとしての効果

さまざまなデジタルデバイスの普及により、世界中の人々と昼夜を問わず即時的な情報交換ができるようになりました。便利なことはありがたいのですが、生身の人間同士のやりとりが非常に少なくなりつつあることが懸念されています。そんな中、2020年春以降の新型コロナウイルス感染症の感染拡大期には、日本を含め多くの国々で外出自粛やソーシャルディスタンス(フィジカルディスタンス)確保が求められました。デジタルデバイスで映像を含め、リアルタイムの情報交換は十分可能でしたが、少なからぬ人々が寂しさや孤独感を訴え、早期の対面交流の機会を待ち望みました。やはり、多くの人々にとって人と人との生身の交流が快いようです。
「健康登山塾」でも、数人の個人の事情による欠席はあるものの、毎回、非常に高い出席率を得ることができました。そして、回を追うごとに各班の歩行ペースが綺麗に揃うようになり、班と班との歩行時間差も10分程度と予想ができるようになりました。歩行中や休憩時のスタッフを含めた参加者同士の意見交換は活発で、各回ともリラックスした雰囲気で開催することができました。標高差や活動時間、運動負荷量が全ての参加者にとって過度にならないように配慮することで、単独で取り組むストイックなトレーニングとは違った、集団活動の利点を引き出すことができたと考えています。健康増進のための運動では競争や競合ではなく、協調によるストレスのない環境づくりが大切です。何人かのグループで健康登山を行う際には、競争になっていないか確認しつつ取り組むことをお勧めします。

グループメンバーとの交流も健康登山の重要な要素

身体的数値としての効果

人間の身体は遺伝的に受け継いだ素因と年余にわたる生活習慣の結果として今ある形になっています。数カ月間何かに取り組んだだけで大きく変わると想像するのは無理があります。短期間の特殊な食生活やライフスタイルの改変で体型や健康状態が大きく変化したような広告をしばしば目にしますが、短期で得られた変化は、その後短期で元に戻ることがほとんどです。ですので、半年間の「健康登山塾」参加だけで、メキメキ健康度が上がる、病気が治るとは企画者も期待していません。変化のきっかけが得られ、その後の適切な生活習慣の継続性が予想されれば十分満足すべきでしょう。
初年度と2年目に得られたデータを解析したところ、2つの年度ともほぼ同じ傾向で、運動開始早期の血圧上昇や運動終了時の低下が観察されています。こうした傾向は、平地でのランニングや自転車エルゴメーターでの測定で報告されている結果と概ね合致します。参加した皆さんには、運動開始時には収縮期(上の)血圧が上がり、200mmHgを越えることもまれではないことを確認してもらうことができました。血圧が状況により相当な範囲で変動することを数字で確認してもらえたことは成果の一つと考えています。平均値にしてしまうとわかりませんが、個人毎の数値を並べてみると、回を重ねるごとに血圧変動が小さくなる参加者が少なからずいたことも事実です。これは、「健康登山塾」の成果で血管が柔らかくなったり、高血圧症が治ったわけではなく、運動開始時の不安が取れて緊張しなくなった、運動負荷を一定にするコツがつかめたなどが理由と考えています。実際、登山企画の2回目(市中開催も含めた開催回数の第3回目)以降では、測定時の心拍数は毎分 100回程度に安定するようになり、運動負荷レベルとしてはほとんどの人にとって余裕を持った有酸素運動レベルとなっていたと考えられます。
着地時の圧力(約40cmのステップを下る時に発生した圧力を同段差を上る時に発生した圧力で割った値を指標とした)も回を重ねるごとに小さくなる参加者が多く、トレーニングの成果により下りでの着地が丁寧になっていると考えられました。こうした成果が転倒防止につながり、山で事故に遭う危険性が少なくなることを期待しています。
「健康登山塾」では、山中歩行初回の第2回目と最終回で同じコースを歩いてもらいます。半年前と比べて、上りでのつらさが少なくなったか、下りで足腰がふらつかなくなったかなどを主観的に比較してもらうためです。繰り返しの参加でスタッフ側の意図も察していることから、最終回では皆さん初回よりもだいぶ楽だと言ってくれます。実際、最終回の登山中は、参加者の表情は終始非常に明るく、会話も弾むことから、こうしたコメントはお世辞だけではないと解釈しています。個人でトレーニングとして山を歩く場合も、年に何度か同じコースを歩き、自分自身の体調変化を確認することをお勧めしています。

血圧・脈拍は活動前後や機会ごとに大きく変動する

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