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山の日メッセージ2025 ~山の日によせて~

2025.08.09

山の日アンバサダー
ライター 登山ガイド
柏澄子

山の日アンバサダー 柏澄子さん

第9回山の日全国大会FUKUI2025の開催、おめでとうございます。
私はまだ、福井県の山に登ったことがありません。来年は、白山の開祖を祭る泰澄祭のときに、越知山に登ってみたいと思っています!

山の日アンバサダー 柏澄子さん



甲斐駒ヶ岳の登拝についてのお話

今回は、毎年7月と9月に行なわれる甲斐駒ヶ岳の登拝についてお話しようと思います。
甲斐駒ヶ岳は1816年、小尾権三郎が、北杜市横手にある駒ケ嶽神社から黒戸尾根を辿りで開山したとされています。この道を通い、山岳信仰を深めてきた人々がいます。現在でも、先代の故今橋武宮司が率いた夏と秋の登拝は続いています。

朝2時、駒ヶ嶽神社で水行をし、3時に出発。
馬留観音や黒白龍神が祭られる二合目までは、まさに観音街道です。33の観音様があったうち、2/3程度現存します。
登拝では、道中の観音様や各所に祭られている神様ひとつひとつに、手を合わせます。紙垂を張替え、線香を手向け、般若心経やご真言、お経や祝詞を唱えます。六合目にある開山様や、東峰にある甲斐駒ヶ岳頂上本社では、長い時間をかけて祈ります。祈りのひとつである「駒嶽御山由来経」は、甲斐駒ヶ岳のどこに、どんな神様が存在するのかうたっていて、登山者の方が聞いても興味深いと思います。

撮影=黒田誠

私が信者でもないのに、登拝に参加するようになった経緯やそれを続けているのには理由があり、この登拝には、私をも受けて入れてくれるような寛容さがあります。ほかにも、北杜に移住して甲斐駒ヶ岳を知り、甲斐駒ヶ岳を撮り続けている写真家、彼はいま甲斐駒ヶ岳から流れ出る水で稲作をしていますが、そんな人もいます。皆が、なにがしかの縁で甲斐駒ヶ岳と繋がっている……そんな顔ぶれです。
学生の頃から、何度も登ってきた黒戸尾根ですが、初めての登拝はとても新鮮で、心が救われるような出来事でもありました。
黒戸尾根は標高差があり、奥深く登っていくボリュームのある道のりですが、緩急があり、実は登りやすいと思っています。登拝では、登る行為そのものが祈りである、というのが私にもしっくりくることで、一歩一歩進むうちに心が整います。

私たちはいつも、九合目で朝ご飯を食べます。そこから眺める赤く燃える赤石沢奥壁。西峰の馬頭観音をお参りしたあと、下山を始めると必ず湧いてくる雲。地獄谷(赤石沢)から湧き上がって稜線でぴたりとその流れは止まります。稜線の先の摩利支天には、太陽が当たっています。こんな光景を、年に二度、毎度毎度のように眺めています。

日本各地にある山岳信仰は、後継も少なくすたれていくところもあります。甲斐駒ヶ岳はほそぼそではありますが、続いています。それは、「変わることを恐れない普遍性」にあるのではないかと思っています。故今橋武宮司は、心ある者であれば、これまでと形態は異なっても受け入れてくれました。長く続く伝統というのは、厳格なものなのかと、以前は思っていましたが、それは時代とともに変容していく勇気と力強さの末にあるのではないかと、今は思っています。もちろん、真ん中にあるものは大切にしなければなりません。

年2回の登拝以外に、横手道の登山道の手入れ、開山前の清掃登山があります。2021年の台風19号で流された童子の碑を引き上げ整える作業をしたこともあります。里での神事もあります。
黒戸尾根に登る機会があったら、ぜひ道中にある神様がどんな顔をしているか眺めてみてください。また、開山の道である横手からも登ってみてください。

2025年夏 柏澄子

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