
山の日レポート
国際山の日
ケシャブさんレポート②回想:山岳地域と気候変動に関する国際専門家協議会
2025.12.17
地域農林経済学会副会長 マハラジャン、ケシャブ ラルさん(科学委員会委員)から
2025年12月6日開催の「国際山の日」2025シンポジウムに参加後
12月16日にレポートが届きました。
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2012年4月4日にネパール・カトマンズで開催された「International Expert Consultation on Mountains and Climate Change」(山岳地と気候変動に関する国際専門家協議会)」に参加する機会があった。この会議はネパール政府が率先して創設された国際協力枠組み、マウンテン・イニシアティブ(MI)による国際的取り組みの一環としての活動で、山岳地域が直面する急速な気候変動の影響に対し、国際的な科学者・政策立案者・開発機関が共同で方針を整理する重要な会合であった。
会議には3つの主題のセッションがあった。
1)気候変動が水・食料・生物多様性・エネルギー安全保障に与える影響と山岳地域の重要性、
2)山岳地域における持続可能な開発の可能性と機会、
3)持続可能な適応と開発に向けたグローバル山岳アジェンダの構築はそれである。
発表内容は、ヒンドゥークーシュヒマラヤ(HKH)地域、中央アジア山岳地域、アルプス地域、アンデス地域、アフリカの山岳地域にわたっていた。
これらの発表の中、個人的に一番関心が高かったのは以下2点である。
1)山岳地域には、段々畑や輪牧、共同森林管理など、環境に調和した伝統的資源管理の知恵が長い年月の中で育まれてきた。会議では、こうした地域の知恵と近代科学を統合し、地域主体の適応策を設計することが最も効果的であると強調された。この理念はその後、多くの山岳国の気候適応計画に反映され、住民参加型の森林管理や気候適応型農業などが政策的に支援されるようになっている。
2)高山湿地や森林は炭素吸収源であるだけでなく、水源涵養や斜面安定化など多くの生態系サービスを提供する。会議では、山岳生態系を基盤としたアプローチ(Ecosystem-based Adaptation:EbA)のような自然の機能を活用した適応策が費用対効果に優れ、持続可能性が高いと評価された。近年、多くの国で湿地保全、森林回復、流域管理などのEbAが推進されている。
会議の結論として、以下の3点が強調された。
1)科学的データの強化と知識ギャップの解消するため、国境を越えたデータ共有、標準化された観測手法の整備、地域研究機関、特に国際山岳開発センター(ICIMOD)の役割強化を求めた。
2)政策レベルでの国際協調の必要性を訴え、ネパールを中心に「山岳アジェンダ(Mountain Agenda)」を国際交渉、とりわけ国連気候変動枠組条約(UNFCCC)で正式に位置づけるべきだと提案した。また、山岳地域に特化した資金枠(山岳適応基金)や、脆弱地域への支援優先度の引き上げが強く求められた。
3)洪水、地滑り、氷河湖決壊洪水(GLOF)など、気候災害の最前線に立つ山岳地域の住民のコミュニティ・レジリエンス(強靭性)向上と包摂的発展のため、伝統知識の活用、若者・女性の参画、持続的生計支援など、住民主体のアプローチが重視された。この視点は後の国際会合でも繰り返し引き継がれることとなった。これらの点について私も多く共感した。
ネパール政府は2015年以降MIを積極的に推進し、山岳課題を国際社会に訴える外交活動を展開した。その流れは、2020年代に入り「Sagarmatha Sambaad(サガルマータ・サンバード=エベレスト対話)」の設立、さらに2024〜2025年のInternational Expert Dialogue on Mountains, People and Climate Change(山岳地域、地域住民、気候変動に関する国際専門家対話)へと発展し、山岳をテーマとする国際レベルの対話が以前より増えたと思われる。
とはいえ、山岳地域の課題が依然と厳しい。「氷河融解は加速し、水資源の長期的枯渇リスクは増している。山岳生態系の破壊や生物多様性の減少も顕著で、観光開発やインフラ整備など人為的プレッシャーも高まっている。地域間のデータ共有は政治的課題に阻まれることも多く、気候資金も依然として不足している。」という状況がある。
「山を守ることは未来を守ること」をモットに各方面からの取り組みが必要である。


科学委員会委員 マハラジャン、ケシャブ・ラル さん
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