
山の日レポート
通信員レポート
水と共に生きる都市・越前大野 ― 50年の地下水保全と市民の知恵 ―(第1話)
2026.01.28
大野盆地は古くから地下水が豊富で、飲料水などの生活用水をはじめ、農業や工業など様々な用途に利用されています。また、名水百選に選ばれた「御清水(おしょうず)」などの湧水地が点在するだけでなく、市民と水の関わりには特に深いものがあり、水と共生する生活様式や水に関わる伝承など特有の文化を育んできました。
しかし、高度経済成長期に地下水位が低下し、湧水の減少・枯渇が進み、大野市特有の湧水文化を後世に引き継ぐことが困難な状況になりつつありました。そのため大野市では地下水を守り、湧水文化を未来につなぐ様々な施策を行っています。
本掲載は、福井県大野市が、2024年に開催した「水資源保全全国自治体連絡会シンポジウム in 越前おおの」で発表された資料を、「山の日」ホームページ向けに再編集し、4回のシリーズで掲載します。
福井県東部に位置する 大野市 は、周囲を山々に囲まれた盆地のまちです。
総面積約872km²のうち、約87%を森林が占め、豊かな自然環境の中に市街地が広がっています。
大野盆地では、南側の山地を水源とし、4本の一級河川が南から北へと流れています。
この地形が、地下に大量の水を蓄え、ゆっくりと循環させる「器」として機能してきました。

南から北へ流れる河川と、山に囲まれた盆地構造
約450年前、織田信長の家臣・金森長近は、市街地南部の湧水地「本願清水(ほんがんしょうず)」を水源として町用水を整備し、碁盤目状の城下町を築きました。
この町割りは現在も大きく変わることなく残り、大野の暮らしと水との深い関係を今に伝えています。
現在でも市街地では、多くの家庭が地下水を飲料水として利用し、炊事や風呂、洗濯など、日常生活の中で地下水が当たり前に使われています。

真名川西側に集中する湧水群(清水〈しょうず〉)と市街地の位置関係
大野では、これらの湧水を「清水(しみず)」と書いて「しょうず」と呼びます。
湧水は観光資源として“見に行く水”ではなく、暮らしのすぐそばに“ある水”として受け継がれてきました。
昭和60年には「御清水」が名水百選に、平成20年には「本願清水」が平成の名水百選に選ばれています。
また、これらの湧水は、生態系や水文化を支える重要な基盤ともなっています。
大野盆地の地下では、河川に沿って地下水が流れ、地下水の循環が単一の自治体内で完結するという、全国的にも珍しい構造が形成されています。
山からの水が地下に浸透し、再び湧水や河川として姿を現す——
この循環が、市域の中で完結しているのです。

一級河川に沿って形成される地下水の流れ
平成14年の調査では、大野市内の全世帯の約70%が井戸を所有し、その数は8,163本にのぼりました。
現在でも多くの家庭が地下水をそのまま飲料水として利用しています。

地下水が生活インフラとして広く利用されている 実態
このように大野市では、
**地形・水循環・市民生活が一体となった「水の箱庭」**が形成されてきました。
山からの水を、どのように社会全体で守り、使い続けてきたのか。
次回(第2話)では、地下水位の低下や井戸枯れという危機を経て、大野市がどのように50年にわたる地下水保全の仕組みを築いてきたのかを紹介します。
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