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山の日レポート

山の日レポート

山の日インタビュー

「縦横無尽 雨宮節 沖縄と山を語る」#8

2023.05.01

全国山の日協議会

沖縄の自然に目覚める

【山の日インタビュー】 この人に聞く「山」の魅力
雨宮節さん(登山家)は2年前までの12年間沖縄で暮らしていました。今年8月11日に沖縄で開催される山の日全国大会を盛り上げるために、雨宮さんに沖縄の山々そして自然の魅力を語ってもらいました。

沖縄県山岳スポーツクライミング連盟事務所にいる雨宮さん 山岳関連図書を寄贈したところ 写真提供:比嘉正之さん

目の前の大自然

鹿野  雨宮さんは、沖縄の自然をどんなふうに感じたんですか?
雨宮  とにかく豊かな自然が人の暮らしてるところの目の前あるってのが、すごいと思った。それまでの僕には、大自然っていうのは、何時間も列車に乗ったり車に乗ったり、ヒマラヤなら飛行機に乗って何日もかけて、はじめて巡り合うものだったわけじゃない。それがここでは、びっくりするくらい豊かな自然が、ちょっと歩くだけで、目の前に拡がってるわけよ。僕自身は植物のこととか、動物のこととかはよくわからないんだけど、そういうことに詳しい地元のいろんな人に、すこしずつ教えてもらって、だんだんそのすごさがわかるようになっていった。まだ世界自然遺産とかいう話が具体的になる大分前からね。

鹿野  沖縄は今度、本島北部のやんばる地域と西表島が世界自然遺産に指定されたわけだけれど、やんばるのほうは宜野座村のすぐ近くですよ。
雨宮  そうなんだ。村そのものは指定地区には入ってないけどね。

国頭村大国林道比地川長尾橋から与那覇岳~伊湯岳の谷を見たところ 写真提供:比嘉正之さん

鹿野  世界自然遺産というと、一般には人の手が入っていない大自然が残されている地域っていうイメージが強いけれど、やんばるの場合は、実は人が住んでいる、利用している、いわゆる人の生活圏にごく近いところに、びっくりするくらい多様な自然の生態系が維持されているのが、特に評価されたと聞きましたが。
雨宮  そう。近くにはサトウキビとか、パイナップルの畑もあるし。それだけじゃなくて、その一角には実はアメリカ軍のヘリポートがあって、ヘリポートって言うけど、僕から見れば飛行場みたいな広大な面積が、金網のフェンスで囲い込まれているわけよ。で、例のオスプレイがしょっちゅう離着陸してる。その拡張工事の計画もあって、本土からは反対運動をする人たちがいっぱい来る。

名護市勝山の三角山標柱が倒れたので、沖縄山岳会員が清掃登山のおりに立て直してコンクリートで固めているところ 写真提供:比嘉正之さん

「よそもの」だからこその視点

鹿野  よそから来たから、かえってその自然の貴重さが身に染みるのかもしれないってことですか。
雨宮  うん。でも意外に思ったのは、実は地元の人達は、必ずしもみんながみんな、拡張工事に反対してるわけでもないっていうことね。僕なんか、これが拡張されたらせっかくのこの素晴らしい自然がだめになるじゃないか、なぜ反対しないんですかって、村長のところまでかけあいに行ったりもしたんだけど、なかなかむつかしいんだよって、体よくあしらわれちゃう。僕みたいなよそ者は、そこに土地を持ってるわけでもないし、限界があるよね。
雨宮  それともう一つ、地元の人たちにとっては、やんばるの自然って、生まれたときからずっと、あたりまえのように目の前にあるものなわけでしょう。だからそれがどれほど貴重なものかっていう実感が、かえって薄いのかもしれないって思った。
で、あんまり力にはなれなかったけれど、やっぱりいうべきことは遠慮しないで言わなきゃってね。そういう気持ちになったのもやっぱり沖縄の、それも那覇みたいな大きな都市じゃなくて、宜野座っていう小さな村に住み着いたからだよね。東京なんかにいたら、考えられないような経験をさせてもらった。

9月の雨の日 やんばる国頭村辺野喜ダム伊集の湖  写真提供:比嘉正之さん

鹿野  ところで、そうこうしているうちに、また登山っていうか、クライミングとのかかわりが出てきた。
雨宮  うん。まさかと思ってたんだけどね。

宜野座村松田ブルシー海岸のボルダー 写真提供:比嘉正之さん

名護市勝山の無名峰を沖縄山岳会のメンバーで登頂 写真提供:比嘉正之さん

聞き取り、構成:鹿野勝彦(全国山の日協議会 評議員)
(2022年11月21日 雨宮さんの自宅にて聞き取り)

(あまみや たかし)
1936(昭和11)年生まれ。
1960年代日本での積雪期岩壁登山、そして1970年代にヒマラヤの山々でバリエーションルートからの登攀を競った「鉄の時代」とともに生きてきた登山界のレジェンドの一人です。
2年前までの12年間沖縄に住み、沖縄県山岳・スポーツクライミング連盟の会長を務めていました。

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