
山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載38】これでいいのか登山道
2025.12.02
連載38回目は前回に続き登山道法研究会副代表の森孝順さんに、「登山道は川である。近自然工法の発想に学ぶ」の続編を記していただきました。なるほど「登山道は川である」ということも実感できますし、各地でこの工法で整備された道を見る機会も増えてきました。
また、皆様が「山の道」について思うこと、考えることなども、ぜひ、ご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。
森 孝順(登山道法研究会副代表)
瀬、淵、滝、蛇行、分散、合流を繰り返す渓流は、つねに変化を続けています。前の年に歩いた渓相は、豪雨に見舞われて様変わりします。侵食を受けて瀬が淵になり、淵が土砂の堆積で埋まっています。登山道の路床でも、流水により侵食、運搬、堆積が発生しています。
自然林に囲まれた渓流は、流量をコントロールしているため、大きな岩に羊歯や苔などが生育して美しい。河川の水の流れを研究して、「登山道は川である」との発想から生まれた近自然工法は、登山道の路床の侵食をやわらげ、生態系の復元を目指すものです。

淵、瀬、小滝が連続し、蛇行、分散、合流を繰り返す安定した渓流の景観美
登山道の荒廃は、登山者が原因で拡大していきます。北八甲田山は、ロープウェイで手軽に稜線に到達して縦走できることから、学校による集団登山や家族のハイキングに利用されてきました。そのため、オーバーユースにより、登山道沿いの高山植物や湿原植生が著しく損傷を受けることになりました。
一度人為により破壊された植生は、強風、融雪、凍上を繰り返す厳しい自然環境の下で、傷口が拡大し、もとの植生を回復することが難しい状況となります。このため近自然工法の導入により、各地で登山道の侵食を防ぎ、自然植生の復元を目指すボランティア団体の活動が増加しています。

侵食、踏圧により荒廃する登山道、各種の対策が実施されています。 (写真提供:岡田博行)
環境省信越自然環境事務所が作成したパンフレット、「登山道を直す~近自然工法の考え方と技法~」の説明が分かりやすいので、その一部を紹介します。
近自然工法とは、「自然に近づける」、「自然に近い方法をつかう」こと、最も大事なことは現場の自然観察です。自然界の構造を施工に取入れ、生態系を復元する方法です。現場を見て流水による侵食、運搬、堆積のプロセスを想像し、どのようにしたら侵食が止まり、植生が回復するか考えることです。
自然の成り立ちを考えながら、侵食された場所に合わせた施工を行なうと、歩きやすいだけではなく、自然環境がよみがえり、生態系が復元してきます。

出典:環境省信越自然環境事務所作成パンフレット
現場を見て侵食の原因を理解し、どうすれば自然が復元するのか、現実的な対応策を検討します。登山道上部での水の流れを変え、水量を減らし、路床をかさ上げし、法面の安定勾配を目指す。歩行者が法面を踏まず、不安なく歩ける階段を作ります。
木柵階段の施工方法のポイントとして、木柵の向きは平行にしない、「ハの字、逆ハの字」になるように設置すること、ガリーの幅よりも長い木材を使い、木材の下側に隙間ができないように石材などを詰めること、段差は20㎝以下とすると歩きやすくなります。

出典:環境省信越自然環境事務所作成パンフレット
近自然工法は、自然環境の回復を目的として、登山道周辺の石や倒木などを活用して整備を進めます。そのため、現地の自然の状況に合わせて柔軟に対応することになります。近自然工法の習得には、自然環境や生態系に関する知識や技術が必要であり、現場での作業経験を積むことが求められています。
岩手山のパークボランティア活動では、故福留修文氏から2007年に登山道の補修について研修を受け、これまで近自然工法の技術を実践しています。活動を継続するためには、財源の確保、技術者の養成、コーディネーターの配置などに、関係する行政の理解と支援が必要となります。

岩手山でのパークボランティアの取り組み(写真提供:阿部ひろあき)
自然公園法では、国立公園は環境省が、国定公園は都道府県が整備することになっていますが、国と地方公共団体で整備し、維持管理されている登山道は一部に過ぎません。登山道の管理者は、登山道の維持管理、整備のあり方、オーバーユース対策、入山料の徴収などを決定できますが、多くの登山道は自然発生的に成立した山道であり、事実上、管理者が不在のままで利用されてきました。
国、地方公共団体、山岳団体、NPO法人などで構成する「協働型管理運営体制」に基づき、登山道の維持管理に取り組む山域が増加しています。飯豊連峰では飯豊朝日を愛する会が、試行錯誤を繰り返しながら、行政と連携して近自然工法の技術の向上と普及啓発を目指しています。
(参考文献)
福留脩文(2006)、「近自然登山道が山の環境保全と利用に果たす役割」山のデータブック、NPO法人山のECHO編集

飯豊山での山岳団体参加による取り組み(写真提供:岡田博行)
登山道法研究会では、これまでに2冊の報告書を刊行しています。こちらは本サイトの電子ブックコーナーで、無料でお読み頂けます。
https://yamanohi.net/ebooklist.php
また、第2集報告書『めざそう、みんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』につきましては、紙の報告書をご希望の方に実費頒布しております。
ご希望の方は「これでいいのか登山道第2集入手希望」として、住所、氏名、電話番号を記載のうえ、郵便またはメールにてお申し込みください。
●申込先=〒123-0852 東京都足立区関原三丁目25-3 久保田賢次
●メール=gama331202@gmail.com
●頒布価格=実費1000円+送料(430円)
※振込先は報告書送付時にお知らせいたします。
報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム
先に刊行致しました「第1集報告書」は在庫がございませんが、ほぼ同内容のものが、山と渓谷社「ヤマケイ新書」として刊行されています。
ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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