
山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載39】これでいいのか登山道
2026.01.05
連載39回目をお届けします。前回に続き登山道法研究会副代表の森孝順さんからのご寄稿です。首都圏にお住まいで高尾山にお出かけになる方はご存じかと思いますが、ナラ枯れなどによる危険木の処理のため、長期間通行止めとなっていた稲荷山コースに関する話題です。登山道のリスク管理は様々な観点からの注意が必要なことがわかります。
また、皆様が「山の道」について思うこと、考えることなども、ぜひ、ご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。
森 孝順(登山道法研究会副代表)
東京都八王子市の高尾山の稲荷山コースは、高尾山登山のメインルートとして多くの登山者に利用されています。このコースは東京都多摩環境事務所により、ナラ枯れなどによる危険木の処理のため、令和7年2月から長期間にわたり通行止めとなっていましたが、11月から通行できるようになりました。
高尾山はナラ類やヤマザクラなどの老齢木が多く、以前から倒木や落枝の危険性のある樹木が多数確認されていました。従来、主に「枯損木あり頭上注意」の標識の設置で対応していましたが、近年、ナラ類が集団的に枯損する事態を受け、長期の通行止めを実施して危険木を処理したものです。

頭上注意標識のある稲荷山コースの登山道(左)、ナラ枯れ注意の標識(右)
11月に利用が再開された稲荷山コースを歩いてきました。歩道沿いには大径木のミズナラやヤマザクラなどの老齢木が多数危険木として伐採され、大きな切り株が目立ちました。尾根を避ける巻き道は危険木処理の対象外のためか、現在も通行止めが継続しています。
高尾山のように観光客の入り交じる歩道での危険木による事故発生は、管理責任を問われる可能性があることから、稲荷山コースだけでなく他のコースにおいても順次、伐採処理が進むものと予想されます。

稲荷山コースで伐採された危険木
紅葉には早い夏ごろに、山の樹木が赤くなって枯れているのが目立ちます。全国でナラ類、シイ・カシ類の樹木が枯れるナラ枯れという被害が広がっています。これは小さな甲虫のカシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)が、ナラ菌という病原菌を樹木の中に運び込むことによって引き起こされる伝染病です。
木の幹にカシナガが穿入した小さい穴が多数あり、木の根元にフラスと呼ばれる白い木屑と糞が溜まっているのが特徴です。カシナガの穿入を防ぐためシートで樹幹を被覆して予防する対策や、薬剤による燻蒸処理も実施されていますが、効果は限定的で終息するまで時間がかかるものと予想されます。

木の根元に溜まる白いフラス(左)、ナラ枯れ対策のシート被覆(右)
カシナガは日本の在来種で、ナラ枯れ被害は1930年代の記録もありますが、拡大することなく数年で終息しています。しかし、1980年代以降に発生した被害は、終息することなく全国に拡大していきました。特にミズナラ、コナラの大径木に集団的に枯損が起きやすく、被害が大きくなる傾向があります。
原因は明確ではありませんが、私たちの生活様式の変化により薪炭林が放置された結果、ナラ類やシイ・カシ類の高齢化・大径木化が進行して、カシナガが繁殖しやすい森林環境になったことが、被害拡大の要因のひとつと考えられています。

燃料として利用されなくなった薪炭林、高齢化・大径木化が進行
奥入瀬渓流歩道沿いのブナ枯枝の落下により、重い後遺症障害が残った人身事故が、2003年8月に発生しました。歩道の管理者である青森県とブナの木を含む国有林を管理していた林野庁に、被害者に対して約1億9千万円の賠償金の支払いを命じた判決が、全国の歩道の管理に大きな影響を与えました。特に観光客を対象とした遊歩道では、安全管理が厳しく求められるとの判断となりました。
現実問題として全国の遊歩道、自然歩道、登山道などの歩道沿いの危険木をすべて処理することは困難であり、歩行者に対して注意喚起をする「頭上注意」の標識の設置が拡大する契機となりました。

奥入瀬渓流歩道、枯枝落下事故が起きた石ヶ戸付近
高尾山は自然公園の指定を受けていますが、首都圏からアクセスが良く、都市公園緑地の遊歩道に近い利用状況にあります。ケーブルカーやリフトの利用により、容易に標高599mの山頂に到達することができます。登山経験の少ない初心者や子供、軽装の外国人登山者も多く見受けられます。
登山道は高齢者や初心者に対応した木道が多く敷設され、手摺の付いた階段も整備されています。滑落・転倒防止、危険木処理、道迷い防止など、登山者へのさまざまな安全対策が実施されています。
それでも転倒・滑落、疲労・熱中症など、2024年には131人の遭難が発生し、富士山を超えて日本一となっています。日頃、登山の恩恵を受ける側として、登山道の管理者にできるだけ負担をかけない、責任をともなう登山が求められています。

高尾山頂からの富士山の眺望、外国人の登山者が多い人気の山
登山道法研究会では、これまでに2冊の報告書を刊行しています。こちらは本サイトの電子ブックコーナーで、無料でお読み頂けます。
https://yamanohi.net/ebooklist.php
また、第2集報告書『めざそう、みんなの「山の道」-私たちにできることは何か-』につきましては、紙の報告書をご希望の方に実費頒布しております。
ご希望の方は「これでいいのか登山道第2集入手希望」として、住所、氏名、電話番号を記載のうえ、郵便またはメールにてお申し込みください。
●申込先=〒123-0852 東京都足立区関原三丁目25-3 久保田賢次
●メール=gama331202@gmail.com
●頒布価格=実費1000円+送料(430円)
※振込先は報告書送付時にお知らせいたします。
報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム
先に刊行致しました「第1集報告書」は在庫がございませんが、ほぼ同内容のものが、山と渓谷社「ヤマケイ新書」として刊行されています。
ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
また、このコーナーでも、全国各地で登山道整備に汗を流している方々のご寄稿なども掲載できればと思います。
この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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