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私の北アルプス物語 3日目 薬師沢から太郎平へ

2026.06.20

山の日アンバサダー
三菱商事株式会社所属 プロスポーツ選手
高橋 勇市(全盲)

山の日アンバサダーの高橋勇市(全盲)さんの登山レポートです

2025年7月20日(日曜日)
薬師沢小屋の朝は、驚くほど早く動き出します。
午前3時。まだ深い闇の中、登山客が床を歩くきしむ音や、ザックのバックルを締める「カチッ」という硬質な音が響き始めました。
「皆さん、雲ノ平へ向かうのかな? それとも高天原かな?」
そんな想像を膨らませるだけで、心はもう北アルプスの奥座敷へと飛んでいきそうです。
美味しい朝食を済ませ、午前7時。
出発の時を迎えました。
お世話になった山小屋の看板娘、大和景子さんとのお別れは名残惜しいけれど、再会を約束して(心の中で指切り)準備OK。
ボトルに詰めた薬師沢の美味しい天然水を一口。喉を通る冷たさが、今日という一日のエンジンをかけてくれます。

薬師沢子屋の朝食

大和景子さんと小屋の前で記念写真

「出発ですよ。まずは沢沿いの岩場を登りますよ。」
仲間達の明るい声に導かれ、歩みを進めます。左手からは黒部川の雄大な濁流の音が、地響きのように体に伝わってきます。
黒部川が重厚な低音を響かせています。
自然が奏でるオーケストラをバックに聴きながら岩山を登ります。
登るにつれ、あんなにも賑やかだった演奏曲も少しずつ、少しずつ
遠ざかり、やがて囁くような小さな音へと変わっていきました。
「足元、少し木道が傷んでますよ。気をつけて」妻の注意が飛んだ直後、「おっとどっこい」。
腐った木道に足を取られ、派手に転倒。
その瞬間、「ゴツン」と鈍い音。ヘルメット君が「僕の出番ですね」と言わんばかりに頭をしっかり守ってくれました。
「いやぁ、ヘルメット君、いい仕事しますね」なんて笑い飛ばせるのも、信頼できる仲間達が支えてくれているからこそです。

樹林帯の石ころや、チャプチャプと音を立てる沢の中を抜け、ようやく湿原地帯の「カベッケが原」へ到着。
「ここは天国ですよ。視界が開けて、風が抜けます」
Tさんの言葉通り、頬を撫でる風が驚くほど爽やかです。

長い長い木道を歩きベンチでひと休み。
ここでのお楽しみは、甘納豆と干し小魚。
ポリポリ、モグモグ。
気分はすっかり伝説の単独行の加藤文太郎です。
加藤文太郎も、こんな美味しい甘納豆は食べてなかったかもしれませんね。
なんせ100均ショップで購入しましたからね。

薬師沢からの帰りの休憩 木道

エネルギーをフルチャージして行動開始。
木道を抜け、ここからが正念場。
道は一気に険しさを増します。
「ここ、高い段差ですよ、木の根っこが張り出してます。」」
「どっこいしょ」、「次は土留めの木枠階段です。一段ずつ、呼吸を合わせて」
仲間達の的確なナビゲートを受けながら、一歩一歩、足裏の感覚に集中します。
ふくらはぎがパンパンに張ってくるのを感じつつ、荒い呼吸を整えて登り詰めると不意に足元が、不安定な土や岩から「カチッ」とした安定感のある綺麗な木道へと変わりました。
「お疲れ様です、もうすぐですよ。ほら、聞こえてきませんか?」
耳を澄ますと、遠くからブーーンという発電機の音と、賑やかな登山者たちの話し声が混ざり合って聞こえてきました。
太郎山山頂の右横を通り過ぎ、ついに太郎平小屋に到着。

太郎平への最後の登り

「おかえりなさい」と五十島さんが温かく出迎えてくださいました。
標準コースタイム2時間半のところを、5時間半かけての踏破。
「木道がちょっとお疲れ気味(腐食)でしたからね、これは仕方がありません」
と笑い合うひととき。
来年と再来年にかけてこの木道も綺麗に整備されるとのこと。
新しくなった木道を、またこの足で踏みしめに来るのが今から楽しみです。
仲間の皆さん、本日も長い時間、私の「目」となり、力強い「足」となって支えてくださり、本当にありがとうございました。皆さんの声と、この北アルプスの音風景に包まれて歩いた時間は、私にとって何よりの宝物です。

さあ、明日はどんなドラマが待っているでしょうか。

五十嶋さんと 無事に戻る

太郎山山頂 記念写真

太郎平の夕焼け(薬師岳)

奇麗な「ごぜんたちばな」写真

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