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山の日レポート

山の日レポート

日本山岳会『山』より

大山のナラ枯れを乗り越えての実践活動

2021.10.01

全国山の日協議会

地域発「山の日」レポート 日本山岳会山陰支部 吉岡淳一

今月は2018年に第3回「山の日」記念全国大会が開催された鳥取県の大山で、広葉樹の景観復元に情熱を注いでいる公益社団法人日本山岳会山陰支部の吉岡さんに綴っていただきました。

大山が危ない

昨年7月末ごろ「大山が危ない。紅葉の時期ではないのに赤くなっています。どうしたんですか」という電話がジャンジャン掛かかってきた。同じころ鳥取県はテレビや新聞を通じて「数年前から大山にはナラ枯れを入れないぞと取り組んできたが、この猛威には手の施しようもない。とにかく精一杯のことをしている」と伝えていた。

点々と紅葉しているように見えるのが「ナラ枯れ」。大山西側斜面の海抜600~800m地帯で、ミズナラの70%前後が集中的にやられた(初夏撮影)

2つの疑問

日頃、大山で活動している私たちは2つの疑問を感じた。一つは「大山でもそのうち終息する」ということ。補虫、捕獲、駆除等の対策を打った効果で終息するというが、ミズナラの木を食い尽くして食べるものがないから移動するだけでないのか? 二つ目は40㎝以上の大径木が枯れていると言われるが、この地区には大径木は少なく、若いミズナラが大半の60~70%やられているということであった。

ナラ枯れについての勉強をしよう

このまま行政に任せていいだろうか。この際「ナラ枯れについての勉強をしよう。やるからには日本でトップクラスの先生を招いて」と一機に決まり、長年ナラ枯れ病の究明と対策に苦労されてきた神戸大学の黒田慶子教授に強引に依頼して勉強会を開催した。9月1日、現地を視察された先生は、「こんなひどいナラ枯れは見たことがない、ここまで来れば手の打ちようがないね。今やっているような対策はムダ金だね。」とバッサリ。山を知り尽くしている私達に丁寧なヒヤリングをされた後、「この際、将来を考えたほうがいい。幸いに貴方達が長年ブナを育て植えてきた実践技術がある。元々ここにあったブナを活用して、大山にふさわしい森づくりをやれるのでは」と提案された。翌日の講演では準備されていた資料を省略して大山に合った指針を提案され、とても納得のいく話に聴講した皆が元気づけられた。

大山にふさわしい森づくり

決まってからの行動は早かった。「ふさわしい森づくり」の具体策は、①生きたミズナラを切り萌芽再生をすること、②我々が持ち合わせている2m以上に育てたブナの若木の植樹、③カエデ類(イタヤカエデとウリハダカエデ、ヤマモミジ)の山引き苗の植樹、④ミズナラの幼樹の育成の4つの柱で進めた。地元の新聞、テレビ、ラジオ等を通じて一般市民にも呼びかけ、労働組合関係、一般企業人、高校生等と、汗をかくことを惜しまない仲間がたくさん集まってくれた。

枯れたナラの伐採作業後にブナの植樹を行った

まだまだ先は長い

地主の鳥取県との協定締結行動と並行して、2mの高さで生茂るクマザサ刈り、ミズナラの伐採、そして11月初旬には2か所のモデル地区にミズナラの萌芽再生10本とブナ170本を植樹。カエデ類50本も植え終え、クマザサを刈ることによって瀕死状態の幼樹も成長が期待できるようになった。この作業には延べ240人の方々が汗を流した。そして今年は、すでに4月から苗木作りを開始し、更に昨年学習した経験を活かして、森づくり作業を安全で効率よく拡大していきたい。まだまだ先は長い。(大山ブナを育成する会会長 吉岡淳一)

(日本山岳会「山」2021年6月号からの転載です。) 

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