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山の日レポート

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通信員レポート

雨にけぶる天上の花園

2025.06.16

全国山の日協議会

― 栗駒山麓に広がる幻想の高層湿原「世界谷地」 ―

「世界谷地」とは、広い湿原という意味です。

あまりの美しさに、昔、修行にきていたお坊さんたちが「極楽浄土の世界のようだ」といったことが世界谷地の名前の由来になったという説もあります。

東北・宮城県栗原市、栗駒山の東麓に広がる「世界谷地原生花園(せかいやちげんせいかえん)」。ここは、本州では珍しい高層湿原のひとつです。

高層湿原とは、雨水を主な水源とし、泥炭が堆積した特異な湿地。形成には冷涼で湿潤な気候と水はけの悪い火山性地形という、自然の絶妙な条件が必要です。このような環境が整うのは主に北海道や高山帯であり、本州では限られた存在。しかも、世界谷地のように標高700〜800mの低地に成立している例はきわめて稀で、学術的にも高く評価されています。

高山植物が織りなす、初夏の装い

6月中旬、雨にけぶる湿原に足を踏み入れると、一面に咲くニッコウキスゲが出迎えてくれました。しっとりと濡れた黄金色の花々やワタスゲの白い綿毛が幻想的な景観を彩っていました。
この地には、北海道や高山帯に見られるような湿原植生が、東北の冷涼な気候と特異な地形の中でしっかりと根を下ろしています。世界谷地はまさに、高山植物たちが静かに息づく花の楽園なのです。

ブナ林を歩けば、森の精霊に出会う

世界谷地へ続く林道は、かつて秋田へと続いたいにしえの道。道中を彩るブナの葉は雨をやさしく受け止め、天然の緑の傘となってくれます。

足元をふと見れば、森の中に静かに佇むギンリュウソウの姿も。半透明のような白さを持つその植物は、まるで森に宿る精霊のよう。晴れの日とはまったく異なる、雨の日ならではの静かな世界がそこに広がっています。

生物多様性のホットスポット

世界谷地の湿原は、寒冷な気候と火山由来の不透水性地盤によって支えられています。ここは、東北地方における生物多様性のホットスポットとしても知られ、貴重な植生と生態系が今も息づいています。
訪れるたびに違う表情を見せてくれるこの場所には、四季折々の驚きがあります。

今まさに、ニッコウキスゲの見ごろ

今、まさに湿原を彩るのはニッコウキスゲ。この黄色い多年草は栗原市の「市の花」にも指定されており、一日ごとに花を変えながら咲き続ける 一日花(いちにちばな)でもあります。
晴れた日も、雨の日も、それぞれの美しさを持つ世界谷地。雨粒をまとった花々や、木々の葉が喜びを歌う舞台のようでした。

花々の季節、静かに深まる湿原の魅力

世界谷地には、自然の豊かさと時間の流れのやさしさが満ちています。花の季節の今、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

レポート原稿写真提供:当会理事むらかみみちこさん(ファーストアッセントジャパン理事長)

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