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山の日レポート

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通信員レポート「これでいいのか登山道」

【連載41】これでいいのか登山道

2026.04.01

全国山の日協議会

よりよい山の道をめざして、私たちにできることは何だろうか?

 連載41回目。前回に続き筑波大学大学院山岳科学学位プログラムに在籍中の松金ゆうこさんに、台湾における近年の登山ブームについてご寄稿いただきました。今回は登山の大衆化、山岳遭難の増加、登山者が環境に与える影響、問題改善の取り組みなどがテーマです。
 また、皆様が「山の道」について思うこと、考えることなども、ぜひ、ご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。

*筑波大学大学院山岳科学学位プログラム
筑波大学大学院山岳科学学位プログラムでは、山の地形、地質、水文、気象、動植物の生態といったことだけでなく、森林経済、山岳観光など、人間と山との関わりについても専門的に学ぶことができます。



大きく変わった台湾の登山に学ぶ (その2)

 松金ゆうこ(筑波大学大学院山岳科学学位プログラム学生)

「大きく変わった台湾の登山に学ぶ」(その1)で述べたとおり、台湾には、3,000m級の高山を始め山が多いという地勢にも関わらず、長く限られた人しか登山を楽しむことができなかった歴史がありました。山地へ入るのに警察の許可を要する山地管制という制度の存在は、人々の自由な登山を制限した理由の1つでした。それが2000年代以降、規制緩和や政策的な推進がなされ、登山がポピュラーな余暇活動へと変わってきました。今回は、近年の台湾で登山者数が増えてきた状況とそれがもたらした問題、そして改善のための取組事例を紹介します。

登山の大衆化

 台湾では、国家安全法を根拠とする上記の山地管制のほか、国家公園法が生態保護区への立入許可制度を定めています。このため、2019年からの省庁連携による山林開放政策で見直しが行われるまで、登山のために二重の許可申請が必要となる山域もありました。手続きの煩雑さから、許可を得ないで行う「爬黒山」(ヤミ登山)も存在したといいます。2001年に山地管制の大幅な緩和があり、個人でも入山申請が可能になりました。制度面で登山がしやすくなったほか、2000年代から全島の登山道の棚卸し作業として「国家歩道システム」が整備され、日本植民地時代に原住民族の統治のため建設された「理蕃道路」や、林業生産のために使われてきた林道など、山地にある道が総点検され、各登山ルートと難易度の情報を誰でも簡単にウェブ上で見ることができるようになりました。
 このように大衆が登山を行える条件が整ってきた結果、現在、政府の調査で、登山は最もよく行うスポーツや、旅行中によく行う活動の上位に挙がっています。COVID-19の流行を早期に抑えることのできた台湾では、日本では外出が自粛されていた2021年にも登山者数がかえって増えました。

かつて複雑だった登山関係の申請は簡素化され、現在は「Hike Smart Taiwan Service」ウェブサイト上で行える

山岳遭難の増加

 現在の台湾では、山岳救助は主に消防が行っています。内政部消防署が2024年に公表した資料によると、2002年以降、山岳遭難は件数、人数ともに増加してきました(2023年は513件、786人)。2015年~2023年の山岳遭難を分析した結果、原因は道迷いが最も多く、37%を占めます。登山団体や学校登山部を通さなくても入山申請ができるようになったことにより遭難者の属性が変化し、現在は、遭難者のほとんどを特定の団体によらないグループが構成しています。かつての台湾では制度的にも、要求される技量水準の高さからも、組織的に専門的な訓練を受けた人しか登山をしませんでした。現在はそれとは無縁の人々が簡単に登山にアクセスできるようになったことが、遭難増加の背景にあると言えます。

登山者が環境に与える影響への関心

 登山者数が増加すると、自然環境への影響は避けられないものです。台湾では1990年代以降、政治体制の民主化、原住民族の権利、ジェンダー等の問題について「公民運動」が盛んに起こり、環境問題についても社会的に関心の高い状況がすでに形成されていました。2000年代以降、メディアで、各山域における自然環境破壊(登山者によるゴミの投棄、登山道や植生への影響、野生動物への影響等)が報じられるようになりました。
 台湾には中央政府の機関である監察院が政策のレビューを行う制度がありますが、2023年、山林開放政策の実施状況について監察委員が調査を行い、その結果をウェブで公開しています。そこで指摘された6つの問題のうち3つが自然環境悪化に関するものであり、環境は登山をめぐる主要な問題の1つであることがわかります。

登山者に着目した問題改善の取組

 登山者の質、量の変化に伴い認識されるようになった山岳遭難や環境問題に対して、台湾の政府機関は登山者の責任意識を強化することによって対応をはかります。その1つの表れが、2020年、政府のスポーツ行政部門が制定した「登山活動応注意事項」という登山者向け行動指針です。これは違反した場合の罰則はありませんが、法律に準じるものとして周知され、2024年には最新の情勢を踏まえた改正がなされました。その内容は非常に具体的です。制定の目的、用語の定義に続いて、登山は自己責任の活動であることが明記されています。続いて、安全から環境に関する登山者の責務、登山計画書やリスク管理のためのチェック表の様式例まで、政府がここまで細かく定めるのかと驚くほどです。
 また、環境問題に対しては、台湾では林地の9割超が国有林という事情があるため、国有林を管理する政府機関が、登山者による環境への影響が広く認識され始めた2000年代後半から、登山者に対する啓発活動を行ってきました。米国発の環境倫理プログラムであるLeave No Trace運動(略称LNT、中国語で「無痕山林」運動)の推進です。現在も台湾の登山道では、登山者自身の安全を守るとともに自然環境や動植物へ負荷をかけないといったLNT7原則の看板を見ることができます。

登山道上に設置されたLNT7原則の看板

より人々に伝わる方法を求めて

 日本以上にSNSが普及している台湾では、登山者の自己責任意識を高めるために、SNSを効果的に用いた登山者向け啓発事業もあります。2025年に林業及自然保育署(林野庁に相当する政府機関)は「山林知事村」事業を実施しました。「山林知事村」公式LINEは開設から4か月間で35,529人が友達登録しました。山林開放政策前後の時期から増えてきた登山初心者を明確なターゲットとし、リッチメニューを通じて登山に関する実用的な情報を登録者1人1人に届けられるようになっています。若者に人気の高いアウトドア用品店等21か所の実地拠点を設け、オンラインクイズの景品引き換えのためLINE登録者が実地拠点を訪れる動機を設けているのも面白いところです。この事業を政府から請け負った台湾山岳報導(雑誌『台湾山岳』を発行している民間の会社)のアイデアが光っています。

人気イラスト作家のデザインで統一された「山林知事村」公式LINE(左)と、登山用品店に掲げられた「山林知事村」実地拠点のサイン(右)。これら店舗には安全登山や装備の相談ができる店員がいることを示す。

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ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)

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