
山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載42】これでいいのか登山道
2026.04.20
連載42回目は、松金ゆうこさんによる、「大きく変わった台湾の登山に学ぶ」の3回目となります。台湾の登山ガイド制度、山でのサービス提供業者、レンジャーのことなどをレポートいただいています。
また、皆様が「山の道」について思うこと、考えることなども、ぜひ、ご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。

様々な職の人々が安全で楽しい登山を支えている
松金ゆうこ(筑波大学大学院山岳科学学位プログラム学生)
連載のその1、その2で述べたとおり、台湾では、山が多いにもかかわらず平地の人々が山に入りにくい歴史があったものの、2000年代以降、登山が大衆的な余暇活動へと変わってきました。今回は、登山ガイドを始め、様々な形で登山者に関わる専門的職種のいくつかを紹介します。独特の歴史的経緯から形成されてきた職業の人々が、安全で楽しい登山を支えています。
1949年から1987年まで、台湾には戒厳令が敷かれ、反共産主義体制の確立のため人々の行動が制限されていました。この行動制限の1つが山地管制です。スパイや不法分子が山地に潜伏することを防ぐ目的で、許可を得ない一般人の入山が禁止され、山地へ至る道路の要衝上に入山許可証をチェックするための検問所が置かれました。また山地管制の一環として、1975年に関連の法律が整備され、3,000m以上の高山に登る際には、警察が認めるガイドがグループにいなければ入山許可証を発行しないとされました。その際定められた初のガイド認定基準では、冒頭に「思想純正」であることが挙げられており、当時の時代背景がうかがえます。この高山登山にあたってのガイド帯同義務は2001年まで存在しました。世界中の多くの国で、登山ガイドの起源は、信仰や観光のために山に登りに来る外来者を案内する、というところにありますが、台湾の登山ガイドは、治安維持のためのお目付け役として登場し、それゆえに当初から国家資格である、というところは着目されます。
1998年にガイド制度は警察からスポーツ行政部門に移管されました。2012年以降、「国民体育法」に定める「体育専業人員」の1つに登山ガイドがあり、中央政府の教育部体育署、2025年以降は運動部全民運動署が制度の運営を行っています。
2025年現在、600名以上にガイド証が発行されています。資格の種類には4種類があり、5 分の4が一般登山で、次いで多いのが「遡渓」(沢登り)となっています。資格を取ろうとする人は政府が認めた訓練機関で講習や検定を受ける必要があり、山岳団体、登山ツアー会社、大学等がその実施を担っています。台湾では近年、商業的な登山ツアーが発展していますが、現行のガイド資格は能力の証明であって、この資格がないとツアーの引率ができないというわけではないため、ガイド制度や登山ツアーのあり方には様々な意見があります。

政府のウェブサイトで登山ガイド資格保持者の情報を確認できる
未踏の山頂を求める冒険的な登山が行われた日本植民地時代から、台湾の登山には、山地の住人であるオーストロネシア語族の原住民族が道先案内人やポーターとして関わってきました。槇有恒『わたしの山旅』など、昭和時代の台湾登山の記録の数々からそのことが読み取れます。山小屋が建設され、荷物が軽量化された現在、大量の荷物を背負った原住民族の人たちを引き連れたスタイルの登山は見かけませんが、今も山小屋に物資を運ぶ歩荷に多くの原住民族が従事しています。
台湾では山林の9割以上を国有林が占めるため、山小屋は基本的に政府の林野行政部門が所有、管理しています。入山許可制度によって平地と山地が長く隔てられていたため、日本のように民間人が自発的に山に入り、山小屋を建設して営業を始める、ということが台湾には起こりませんでした。このような政府施設の山小屋に常駐して、登山者に対して飲食提供などの営業行為を行っている民間業者がおり、「協作」(シエツオ)と呼ばれています。この「協作」も原住民族の就業の場となっています。

山小屋は政府が所有、管理し、民間業者が飲食提供を行うことが一般的
登山者対応のために設けられた職ではありませんが、生態保育を任務とする国家公園の「保育巡査員」(park ranger)と国有林の「森林護管員」(forest ranger)も、山で見かける職業の人々です。国家公園の保育巡査員は、国家公園内で発生した山岳遭難の救助も行っています。森林護管員は俗に巡山員と呼ばれ、かつて島内で林業が盛んであった時期は、盗伐の監視を主な業務としていました。天然林の伐採が禁止されている現在、森林護管員の業務は生態保育、山林防災、登山者の救助などへと多様化し、近年は女性も増えています。2020年代以降、森林護管員の日常をテーマにした小説やエッセイが出され、山に関わる仕事として注目を集めています。
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以上、3回の連載で、台湾の登山の今がうかがえるトピックをいくつか挙げてみました。日本と比較すると、異なる制度、気候など登山実施環境の違いがもたらす、登山者の行動パターンやよく使われる装備の違いも興味深いところです。これらについても、別の機会にご紹介したいと思います。

高温多湿の台湾の山では霧が立ち込めやすく、遭難の原因の1位を道迷いが占める
*筑波大学大学院山岳科学学位プログラム
筑波大学大学院山岳科学学位プログラムでは、山の地形、地質、水文、気象、動植物の生態といったことだけでなく、森林経済、山岳観光など、人間と山との関わりについても専門的に学ぶことができます。
登山道法研究会では、これまでに2冊の報告書を刊行しています。こちらは本サイトの電子ブックコーナーで、無料でお読み頂けます。
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●申込先=〒123-0852 東京都足立区関原三丁目25-3 久保田賢次
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報告書の頒布は、以下のグーグルフォームからも簡単にお申込み頂けます。
報告書申し込みフォーム
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ヤマケイ新書 これでいいのか登山道 現状と課題 | 山と溪谷社 (yamakei.co.jp)
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この記事をご覧の皆さまで、登山道の課題に関心をお持ちの方々のご意見や投稿も募集しますので、ぜひご意見、ご感想をお寄せください。
送り先=gama331202@gmail.com 登山道法研究会広報担当、久保田まで
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