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山の日レポート

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通信員レポート

週1回の「軽」登山で生活習慣病を防ごう  鹿屋体育大学 山本正嘉

2022.05.20

全国山の日協議会

登山の効用

 登山は昔から、年齢や性別に関係なく親しまれてきた生涯スポーツです。この登山を、健康増進にも活用できないかと考え、様々な研究をしてきました。
 まずその結論を言うと、①登山の励行は健康増進にとって非常によい、②ただし上手に行う工夫が必要、ということになります。
 以下に、登山を上手に励行することの例を紹介します。

 佐賀県に金立山(502m)という古い由緒を持った低山があります。そして金立水曜登山会という市民団体があって、季節や天候を問わず毎週水曜日に100名以上の方が集まり、3~4時間程度の半日登山を楽しんでいます。
 私たちはこの会の皆さんにお願いして、健康や体力などの状況を調査してきました。

金立水曜登山会が2017年に創立7周年を迎えたときの記念写真(同会提供)

水曜登山の様子。複数のベテランリーダーが要所でペース管理をするので、初心者 でも無理なく歩け、健康づくりの面でも最適な負荷をかけることができる。

健康状況の調査結果

 運動不足を続けていると生活習慣病にかかることはご存じの通りですが、これには代謝系の障害であるメタボリックシンドローム(高血圧、糖尿病など)と、運動器系の障害であるロコモティブシンドローム(腰痛、骨粗しょう症など)との2種類があります。毎週登山を励行している人たちはどの疾患をとってみても、同年代の日本人の標準値と比べて著しく有病率が小さいことがわかります。
 登山は典型的な有酸素性運動(エアロビクス)で、運動時間が長いことが特徴です。このため、心臓や肺にほどよい負荷をかけ続けながら、体脂肪をたくさん燃やすことができます。また、荷物を背負って坂道を上り下りするので、全身の筋力が強化され、骨にも刺激が加わります。これらのことが図1のような効果をもたらしているのです。

図1.毎週登山の励行による健康への効果(笹子と山本、2021)メタボリックシンドローム(①~③)、ロコモティブシンドローム(④~⑥)のいずれに対しても、大きな抑制効果をもたらす。

図2は、水曜登山会の方が県外の大きな山(日本アルプスの縦走など)に出かけた時の、登山中の身体トラブル状況です。1カ月に1回のペースで登山をしている中高年の方たちのトラブル状況と比べてみると、水曜登山会員の方が平均で13歳も年上なのに、トラブルの発生率は小さいことがわかります。
 ここにあげたトラブルのうちでも目立って多い「膝の痛み」や「下りで脚がガクガクになる」は、転ぶ事故の要因となります。また「上りで心臓が苦しい」は、心臓に問題を抱えている人では心臓突然死の引き金となります。これらの事故件数をあわせると、現代の登山事故の過半数に達するので、軽登山の励行は事故防止にとっても有効なのです。
 軽登山の励行とは、いわば普段からのこまめな体力トレーニングに相当します。その積み重ねが、健康や体力の増進につながり、大きな山に出かけたときにも役立ってくれるのです。「ちりも積もれば山となる」ということわざのとおりです。また昨今では、新型コロナウイルスの影響で不活発な生活になりがちです。週に1回、空気のきれいな山に出かけて半日程度の気晴らしをすることは、精神面の健康にも最適です。

図2.毎週登山の励行による大きな山でのトラブル抑制効果(笹子と山本,2021)A群(水曜登山会員)は平均年齢が69歳、B群は56歳の男女の登山者。A群の方が13歳も年上だが、毎週登山の効果により、大きな山に登った時のトラブル発生率は低い。

 日本では全国津々浦々に、古くから地元の方たちに親しまれてきた低山があります。この地域資源を活用して、心身の健康を増進するための登山プログラムを提供できれば、大きな価値があります。
 登山を国民的な生涯スポーツとしてだけでなく、国民的な健康スポーツとしても位置づけたいというのが、私たちの目標です。

 <参考文献>
笹子悠歩,山本正嘉:週1回の低山登山がもたらす恩恵とその具体的な実施方法について.登山研修,36:16-24,2021.

プロフィール
 山本正嘉:やまもと まさよし、教育学博士
現鹿屋体育大学教授、兼同大学スポーツトレーニング教育研究センター長
東京大学 教育学部 体育学科卒、同大学院 修士課程体育学専攻修了、
 詳細は、鹿屋体育大学HPからどうぞ
https://www.nifs-k.ac.jp/property/researchers/syllabary/syllabary08/000424-2/

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