
山の日レポート
通信員レポート「これでいいのか登山道」
【連載43】これでいいのか登山道
2026.06.10
連載43回目は、鹿島賢史さんによる、「利用集中が生む登山道荒廃」(3回連載)の初回となります。福島県の安達太良山を事例に、登山者の流れ、ルートの構造、地形や気象といった自然条件などと登山道荒廃の関係を綴ってもらいました。
また、皆様が「山の道」について思うこと、考えることなども、ぜひ、ご寄稿くださいましたら幸いです(ご寄稿先メールアドレスは文末にあります)。
鹿島 賢史 (筑波大学大学院 山岳科学学位プログラム)
近年、日本各地の山岳地域において、登山道荒廃が顕在化しています。登山者数の増加に伴い、踏圧による路面の劣化や侵食、植生の損傷といった問題が広く見られるようになりました。とりわけアクセスの良い山や観光地化が進んだ山では、その影響が顕著に現れています。
しかし、実際の現場を見ていくと、こうした荒廃は単に「登山者が多いから起きる」という単純な構図では捉えきれません。登山者の流れ方、ルートの構造、さらには地形や気象といった自然条件が複雑に絡み合いながら進行しています。今回は、福島県の安達太良山を事例に、利用集中と登山道荒廃の関係を具体的に見ていきます。
安達太良山は複数の登山ルートを有する山域ですが、その中でも奥岳登山口は特に利用者が多い登山口です。その大きな要因となっているのがロープウェイの存在です。これにより登山開始地点の標高が引き上げられ、体力的な負担が軽減されることで、観光的な登山者を含む幅広い層が山に入りやすくなっています。
結果として、本来は分散されるはずの登山者が特定ルートに集中し、局所的に高い負荷がかかる構造が生まれています。このような「人の流れの偏り」は、登山道荒廃を理解する上で重要な視点となります。

安達太良山における登山道ルート (くろがね小屋HPより抜粋)
利用が集中する登山道では、踏み固められた路面が徐々に劣化し、ぬかるみや段差が生じます。登山者はそれを避けるように歩くため、本来の登山道の周囲に新たな踏み跡が形成されます。この現象が繰り返されることで、登山道は一本の線から面へと広がり、「複線化」が進行します。
安達太良山の現地でも、こうした複線化は広範囲で確認されました。複線化は単なる景観の問題にとどまらず、植生の破壊や土壌流出を引き起こし、登山道の回復を困難にする要因となります。

複線化した登山道
さらに、登山道荒廃は自然条件によって大きく左右されます。雨水が集中する場所では侵食が進みやすく、地表の土壌が流出するケースも見られます。また、冬季には凍結、春には融解が繰り返されることで、登山道脇斜面の崩落を引き起こします。
このように、登山道荒廃は人為的要因と自然的要因が重なり合うことで進行します。利用集中はそのきっかけとなる一方、地形や気象条件がその進行速度や形態を規定しているのです。

冬季には、登山道上にも豊富な積雪が観測される
安達太良山では、ロープウェイの利用によって標高を一気に上げることができるため、比較的軽装で山頂付近までアクセスする登山者が多く見られます。その結果、登山経験や装備の異なる多様な利用者が、奥岳登山口から山頂へ向かう同一ルート上に集中する傾向があります。
現地では、ぬかるみや段差のある箇所で歩きやすい場所を選んで進む様子や、すれ違いの際に登山道の外側へ一時的に外れる行動が確認されました。こうした一つ一つの行動は小さなものですが、それが繰り返されることで、踏圧の分散や新たな踏み跡の形成につながり、結果として登山道の幅の拡大や複線化を促す要因となります。
このように、安達太良山における登山道利用は、単に人数の問題だけでなく、利用者の行動の積み重ねによってそのあり方が形づくられています。ロープウェイによって多様な層が同じ空間を共有するという条件が、登山道への負荷のかかり方にも影響を与えていると言えるでしょう。

土壌が流出した木造階段部
安達太良山の事例からは、「多くの人に開かれた山」と「登山道の保全」とのあいだにある緊張関係が浮かび上がります。利用を受け入れるほど負荷は増大し、制限すれば山の魅力は損なわれる。このバランスをどのようにとるかは、今後の山岳利用における重要な課題です。
では、こうして傷んだ登山道はどのように修復されているのでしょうか。次回は整備の現場に目を向けます。
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